
ここ30年間にわたり、介護疲れが原因とされる殺人事件や心中事件は毎年平均39件発生しています。この数字は、なんと9日に1件のペースで人々の心の闇を映し出す衝撃的な事実です。映像が伝えたその現実は、一瞬にして私たちの心を揺さぶります。「親を殺したり、配偶者を殺したりすることが頭をよぎる」と語るえみさん(仮名)の言葉には、薄暗い絶望感が漂っています。この社会問題は「介護サービス拒否」を背景に、より深刻化しています。
兵庫県神戸市に住むえみさんは、認知症を抱える87歳の母親との生活を強いられています。15年前に父親のパーキンソン病が始まってから、時間は足りず、金銭的な余裕もない。彼女の日常は「自分がしなければならない」というプレッシャーで一杯です。「頼る人がいないのが現状」と、彼女の目には不安が浮かびます。経済的な負担が積み重なり、心の余裕が失われる中で、彼女はただの日常を送ることすら困難に感じています。
ある事件では、94歳の母親を暴行し死亡させた元弁護士の男が、介護サービスを受け入れない母親に翻弄され、精神的に追い詰められていく様子が証言されました。彼は、「なぜわかってくれないのか」という心の叫びを抱えながら、無理解と絶望感から凶行に及んでしまったのです。精神的な問題を抱え、アルコールに頼るようになってしまった彼の背後には、ただの無理解ではなく、「介護する者」と「される者」の間に存在する深い溝があったのです。
さらには、最近東京都国立市で発生した102歳の母親を殺害した71歳の娘の事件も、同様の家族間の圧力を反映しています。それぞれの家庭でどれほどの葛藤が起きているのか、そしてなぜ、介護を巡る事件が繰り返されるのか。その根源は、介護サービスの採用拒否にあると、専門家たちも口を揃えています。
この状況を打破する手立てはあるのでしょうか。介護サービスを受け入れられない家族と向き合う方法を模索する必要があります。日本福祉大学の教授、湯原悦子氏は、「介護疲れは決して個人の問題ではなく、社会全体で向き合う課題です」と語ります。日々の生活の中で、介護という現実をタブー視せず、家族全員で話し合う時期が来ているのです。
実際に家族が介護サービスをどのように受け入れられるのか、多くの介護現場での実体験を聞くことは貴重です。全国的に介護事業を展開する「ツクイ」の原優実さん(54)は、5年間両親を介護してきた経験を通じて、家族の意識改革が絶対必要だと感じていると話します。介護スタッフが家に入ることに抵抗を感じている人々にこそ、少しでも外部のサービスを利用する余地を持たせることで、その心の負担を軽減することができるのですと指摘しました。
一方で、元テレビ朝日アナウンサーの西脇亨輔弁護士は、介護に関する話し合いを早い段階からどう進めるかが、今後の社会全体の福祉を向上させる道となると強調します。人はいつか必ず自らの恵まれた立場を失うと、彼は強く警告します。「誰もが人の助けが必要な時期が来る」と、福祉問題に関心を持つことの重要性を訴えています。
このような困難な状況にあっても、私たちが協力し合うことで、誰もが抱え込んでしまう介護の重圧から解放される道は開けるはずです。日本社会が抱えるこの深刻な問題に、私たち一人ひとりが目を向け、共に考えていける未来を切り開いていくことが求められています。
